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ASAP実施報告:GEIDAI-FEMIS WORKSHOP in Paris 2018

February 20, 2019

アーツスタディ・アブロードプログラム(ASAP)とは、国際舞台で活躍できる優れた芸術家の育成を目的として平成27年度に開始した、学生の海外での芸術文化体験活動を促進する実践型教育プログラムです。国際経験豊富な藝大教員陣によるサポートのもと、参加学生自らが主体となり、海外渡航を伴う展覧会や演奏会、上映会、研修への参加、協定校への訪問等プログラムを実施します。

実施事業概要

事業名称:GEIDAI-FEMIS WORKSHOP in Paris 2018
実施者:映像研究科映画専攻
渡航先:フランス(パリ)
参加学生数:7人
実施時期:2019年1月(6日間)

成果概要

フランス国立映画学校(FEMIS)において、主にプロデューサーの観点から「フランスにおける映画制作及び配給に関する公的支援の状況」「日仏合作映画の制作の実務」「フランスにおける日本映画の配給の実務」などについて、各分野の第一線で活動するゲスト講師から、具体的な事例に基づいた実践的なレクチャーを受けた。また藝大において制作された作品の上映を行い、研究成果を発表するとともに、学生、教員らとの意見交換を行い、自身の研究について多角的な検証を行うことができた。ワークショップの主な日程は以下の通り。

1日目 午前 講義「フランスの映画制作制度の概要」
午後 映画『寝ても覚めても(ASAKOⅠ&Ⅱ)』試写、施設見学
学生発表「日本映画の現状について」
2日目 午前 ヴェルサイユ宮殿見学
講義「歴史的建造物の撮影の実際」Jeanne HOLLANDE Manager in charge of film shoots CHÂTEAU DE VERSAILLES
午後 フェミス施設見学
3日目 午前 講義「フランスにおける日本映画配給の戦略」Marion THARAUD Head of marketing department at HAUT ET COURT & ART HOUSE FILMS
午後 講義「フランス・ヌーヴェルヴァーグについて」Caroline SAN MARTIN Research project managerLA FÉMIS
4日目 午前 ケーススタディ「是枝裕和監督作品『真実(The Truth)』の制作について」Muriel MERLIN 3B PRODUCTIONS
午後 講義「日仏共同制作の実際」Masa SAWADA COMME DES CINEMAS
藝大作品上映と討議
5日目 午前 質疑「フランスにおけるプロデューサーの役割」Pascal CAUCHETEUX Producer Why Not Productions Head of the Producing dept at La Fémis
午後 講義「セリジオ・レオーネ展について」Matthieu ORLEAN Artistic Advisor in charge of La Cinémathèque exhibitions
シネマテーク・フランセーズ見学

フェミス到着

講義「惑星」課題について

藝大作品上映

ちょうど、昨年のカンヌ国際映画祭のコンペティションに選出された藝大の卒業生濱口竜介監督の「寝ても覚めても」の全仏公開がはじまるタイミングでの実施となり、同監督の「ハッピーアワー」のフランスでの大成功も踏まえ日本映画のフランスでの成功事例として格好の教材が提供された。今年度は2019年度にフェミスの監督領域の学生を招いてのワークショツプを実施する予定で、カリキュラムの連続性を作り交流を進める意味で初めてフェミスの監督領域の学生も参加した。藝大作品の上映後の質疑では監督学生の演出的観点からも活発な質疑がなされ、本学の他領域の学生にとっても有効な刺激となった。カトリーヌ・ドヌーブを主演に迎えた是枝裕和監督の新作がフランスでの撮影を終えたばかりで、プロデューサーより極めて具体的にフランスでの制作の実際が紹介され、学生にとってはより身近に海外での制作についての諸問題について実感することができた。また今年度は学生も「藝大での映画制作と日本映画の現状」について英語でプレゼンテーションを行い、より主体的にワークショツプに参加することができた。

体験記

  • フランス国立映画学校フェミスワークショップの案内メールをいただいた時、迷わず参加したいと思った。明治維新以来、独特なオリエンタリズム文化をもつ日本に魅力を感じて留学まで来た私は、映画本場とも言われるフランスがどのような考えを持って映画を作っているのかがすごく気になった。フランスに渡る前に、フランス映画産業やフェミスに関して調べようとした。我らが1週間お世話になるフェミす映画学校は、全世界の映画学校で一番競争率が激しいとこであった。どれだけ入学するのが難しいかと言えば、入試を話題とした密着ドキュメンタリーまであるくらいであった。これだけ入るのが難しい学校はどのようなシステムで世界を動かしているのかがますます気になってきたし、こうやってワークショップに参加して学べることに感謝した。
    現地に到着して校長先生の挨拶の言葉で早速ワークショップは始まった。様々な講師がフランス映画産業のシステムに関していろいろ教えてくれた。またカンヌ映画祭で最高賞を受賞した是枝監督のフランス新作『真実』を取り上げていろんな話や裏話まで聞かせてくれた。「フランスは映画」という言葉に相応しいくらい映画産業に力を注いでいた。ほとんどが民間からお金を集めて映画を制作する日本に比べ、国に独立機関が存在し、民間よりは国からのお金で映画の制作が成り立っていた。また映画税金というのがあって、テレビ局からも1年間の売り上げから何%を映画産業に支援しないといけないという法律があるくらいなので、それは言うまでもない。フランスは映画という文化が世界に満たす効果に関してよく知っていた。様々な支援により世界で活躍する優秀な新人監督が生まれ国威になるのだ。もはや世界は文化の時代だ。文化が与える影響力は言葉より強いと思う。フランスで得た経験から日本で様々な研究を重ね映画がより活性化できる方法を探ってみたいと感じた。(映像研究科 2年)
  • 世界中の映画学校の中で最高レベルの学校であるフェミスで5日間さまざま講義を聞き、また、シネマテークを案内していただいたりして、とても充実したプログラムだった。最初に校長先生にフェミスの教育方針についてお話ししていただき、日本の学校では考えられないような自由な環境をうらやましく思いました。CNCなどフランスで映画を作る際のシステムについても教えていただき、フランスという国が映画に対して高い意識を持ち、映画を守っているということにも感銘を受けました。みんなでどうしたら日本の映画界が変わっていけるのかということについても考えることができました。フランスにおける様々な助成金やフィルムコミッションについて説明していただいたり、是枝監督「真実」を制作されたプロデューサーの方からお話を聞いて、これまでは現実味がなかったですが、自分が海外で映画を撮れる可能性も感じました。さらに上映会では自分の作品も上映いただくことができ、自分の尊敬する撮影監督の方に作品を観ていただいてお話しできました。これは大変貴重な経験になり感謝しています。映画には映画の言葉があるということについて、改めて認識することができました。(映像研究科 1年)
  • フランス映画撮影の経験を持つ監督領域両教授より日本映画、フランス映画の制作環境の差を痛いほど教え込まれたこの1年。また私自身もフランス国内で開催されている映画祭の参加経験からフランス国内あるいはフランス映画を制作する環境、ひいては映画の考え方そのものが日本とは全く異なっていることは理解してたつもりではあった。簡単にいえば、「日本映画は興行。フランス映画は文化・藝術。故にフランス映画はえらい」という感覚があった。
    ワークショップではフランス映画の歴史、現在の映画制作事情を日本映画、日本で映画を制作することと比較し絡めながら授業が進められた。フランスでは前述したとおり、映画を文化・芸術とみなしている。経済市場など”金を儲ける”といった考えを映画制作に取り入れないようなシステム、税金制度などを国単位で考えて取り組んでおり、いわゆる作家主義の思想を持ったシステムを、私自身が制作するような作品には大変やさしいシステムを次から次へと説明され、なんとも日本で映画を制作するやりづらさを突きつけられた。しかし、そんなフランスでの(私にとって)パラダイスな映画制作システムだからこそ生じる歪みがあることに気づく。作家主義映画を迎合しているからこそ、それ以外の映画と括ることがまだできない未知の作品やいわゆる娯楽映画に対しての風当たりは強く、映画業界自体が偏った作品づくりになっているという点だ。日本では興行という観点での映画制作により、映画制作において税制度や国としての制作体制が整っている訳ではない。だからこそ本当に多種多様な映画が生まれる。
    日本映画は、特に近年ではインディーズの作品などが勢力的で、多種多様、商業映画や作家映画がごちゃ混ぜな作品が生まれている。映画界でもガラパゴス化している日本だからこそよくわからない未知なる映画が多く存在する。今後、私たちが日本映画、そもそも映画の現状を考え、問題解決やよりよい映画制作の制度・体制づくりを担わなければならないと身を持って実感し、その対策を考え始めるきっかけとなった。つくられた制度の中で映画制作をすることに留まらず、より面白い、観たことのない映画を発見するために、映画を失わないために、私たちのできることを考えなければならない。(映画専攻/監督領域 1年)
  • フェミスにおいては、連日、フランス映画の歴史やその産業システムに関する講義、フランスにおける日本映画の歴史などに関してレクチャーを受けた。また、外部の配給会社や制作会社を訪問し、日本映画の配給やフランスにおける映画制作について質疑応答を行った。中でも興味深かったのは、フランスにおいては、文化省の管理下にある国立映画センター(CNC)が映画産業を統括しているという点である。この機関がフランスで公開されるあらゆる映画の収益を把握し、特別税として徴収した収益を活用して若手の作家や新しい作品の支援・養成が行われている。近隣の国家・韓国においても、フランスと同様のシステムが取り入れられ、独立映画への支援が盛んに行われている。また、フランスにおいては、諸外国との共同制作が多く、フランス単独映画の方が逆に少ないという。共同制作の作品も、フランス単独作品と同様に、CNCの支援が受けられる。ただし、共同制作国との協定を結んでいる必要がある。中国や韓国を含む多くの国家が締結しているのにもかかわらず、日本はされていないという。理由は、日本政府とフランス政府の根本的な価値観の違いに起因するようだ。日本政府は、経済的価値や軍事的価値から離れた、あるいはその対比としての「文化的な価値」を軽視しているように感じる。その結果として、深刻なガラパゴス化が進行しているのである。
    グローバル化した現代において、芸術を語る上で国家という枠組みに囚われるのは前時代的な考え方であると思う。芸術分野は、政治的な拘束から離れたところに存在するべきであり、個人による発信が可能となった今、無国籍・あるいは多国籍の表現が可能になった。ただし、同時に、政府による保護なしに、芸術が経済的価値と距離をとることは困難でもある。その点においては、フランスは一国家として自国の利権を守りながらも海外諸国の優秀な才能がフランス映画に関わりたいと思う仕組みづくりをうまく行っている。表現に携わるものとして、フランスにおけるCNCに代わる日本映画産業のシステム作りについて考えさせられた。(映画専攻)
  • 去年東京藝術大学に入ってから、フェミスとの交流活動について聞いたことがあるので、ずっと興味を持って参加してみたいと思っていました。
    先輩から聞いた話によると、やはりフランス語を勉強した方がいいと言っている方が多かったので、自己紹介のフランス語を勉強してみたのですが、緊張し過ぎて言えなかったです。しかし、フランス側の方々もとても優しく対応してくれ、とても楽しいフランス生活が始まりました。フェミスでフランス映画に関して、より深く理解できました。まずはフランスの税金制度や助成金制度に関する知識をたくさん教えてもらいました。プロデューサーとして知るべき現場の楽しみ方も各側面から教えられました。特にいろんな制作会社や配給会社に連れて行ってもらい、日本映画との合作経験も聞かせていただき、とても現実的なアドバイスももらいました。その話に基づき、今後の自分のキャリアプランもますますはっきりしてきました。今回のワークショップに参加させていただき、とてもいい経験になりました。(映画専攻プロデュース領域 1年)
  • 渡航中、主にフランスでの映画制作の状況について講義を受けました。初回はCNCがどのような組織であるか、また、フランスにおける映画の位置付けが文化であり守るべきものだといいうことを知りました。また、是枝監督の「真実」を鑑賞し、その後フェミスの施設を見学しました。2日目はフェミすの美術部長による講義を受け、その後パリ地区のロケーション利用について説明を受けながら街を歩きました。MIKROS IMAGEを訪問し、CG・編集がどのような環境で行われているか直接見学しながら知りました。3日目は「真実」のプロデューサーとコミュニケーション統括担当の方から撮影のときの様子や日仏の共同制作について講義を受けました。スーヴェルヴァッグの講義では2年間の映画史をインタラクティブな形で行い、映画の画面構成による意味づけについて学びました。4日目は日仏の映画交流史について講義を受け、その後、フランスの日本アニメ供給会社を訪問しました。また、藝大の作品とフェミすの日本で制作した作品の上映を行い、お互いの作品について質疑応答をしました。5日目はフランスのプロデューサーと質疑応答形式で対話し、フランスのプロデューサーの在り方について学びました。その後、シネマテークの見学をし、5日間のプログラムは終了しました。
    今回の活動を通してフランスにおける映画制作の概念を知ることができました。また、日本と比較することで日本の映画業界の課題と自分が何をするべきかということについて考えるきっかけにもなりました。さらにはプロデューサーたちとお話ししたことで、プロデューサーという役割がいかに多様かつ重要な役割であるかを体感しました。日本とフランスではその業務内容も大きく異なるが、共通することとして、映画を愛し、監督やスタッフとの信頼関係を構築するのが重要だと改めて感じました。今後、広い視野を持ち活動の幅を広げたいと思います。(映画専攻プロデュース領域)
  • ワークショップに上映した作品は私がプロデューサーをした作品である。渡仏する前、監督と必要な書類などを準備した。ワークショップ期間中、毎日の活動が充実していた。CNCの説明、フェミス美術部課題の紹介、フランスでの税制度、VFX制作会社見学、是枝監督「真実」のプロデューサーとの会談、ヌーヴェルヴォーグの映画史、日仏映画交流史の授業、フェミスと藝大の上映会、配給会社EURO ZOOMの見学、「why not production」のプロデューサーとの交流会、シネマテークの紹介、様々な活動があった。単純な授業だけではなく、フランスで撮影する場合の制度、ルールも教えられた。そして、フランスの映画産業の現況もよくわかった。最後に、上映会を通してフェミスの学生、先生たちと意見を交換した。交流することは良い勉強になった。業界の人たち、フェミスの人たち、パリ第三大学の先生との交流、全ては大切な宝である。ワークショップが終わった後、私もパリで映画を勉強する友人と会った。その中にフェミスの卒業生、パリ第八大学、第三大学の学生がいる。私が今回ワークショップで得た経験をみんなと共有した。今回のワークショップを通して、将来フランスで撮影することについてすごくいい勉強になった。フランスで撮影することも可能になった。一番重要なことは、世界中の人たちと接することで、将来に非常に役に立つと思う。(映画学科1年)
  • プログラムは、講義、事例研究、ワークショップ、パリの映画関連企業への訪問で構成され、主にフェミスで実施されました。プログラムは非常によく構成されていて、プロデュース、美術、撮影照明、VFXなどを含む映画制作のさまざまな分野からのさまざまな活動があると思いました。パリでの5日間のワークショップでは、フランスの映画産業の構造、課題、利点を十分に理解し、大学での多くの素晴らしい学生と教師に会いました。また、日本の映画産業についての理解を深め、将来的に国際的なコラボレーションに取り組むことをこれまで以上に励まされていると感じました。このワークショップは、藝大の学生たちが授業外で一緒に過ごす素晴らしい機会でもあり、学生と参加している教師とのより深い絆の形成に貢献したと感じています。今年の春、横浜で再びフェミスの学生に会えることを楽しみにしており、今後、藝大とフェミスの交流が拡大することを期待しています。(映画専攻)
  • 今まで海外で映画のことについて学ぶことは考えたことがありませんでした。今回のプログラムに参加し、パリで映画のことを学ぶことが大変有意義な体験でした。渡航準備中は、パリで撮られた作品を中心に観るようにしていました。実際渡航してから、フランスの映画を撮る上での精度や考え方をしることができ、結果日本の映画制度を考えるきっかけになりました。フランスのように映画を大切に扱うことができたらいいなと思いました。フェミスでは、撮影の授業に参加することができ、すべてフランス語の授業でしたが、あちらの学生も英語で説明してくれたり、とてもやさしかったです。いい機会をくれた先生や学校に感謝しています。プログラムでは一貫して、フランスではいかにして映画を大切にして、守っていくかも教わることができました。プロデュース専攻の同級生がもともと参加するプログラムでしたが、参加できてよかったです。英語が話せたら、フランス語が話せたらと思うことも、とても多かったです。語学の勉強をしてこなかったので、これからしていこうと思いました(修士1年)