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トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム修了生による帰国後の活動紹介 – コレクティブ・パフォーマンス「でたらめな境目」

December 25, 2019

この企画は、もともとトビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム(以下「トビタテ」)修了生のコミュニティがプラットフォームになっています。お互いにフラットな関係を築きながら、トビタテの留学経験を活かして一つの作品を作れないか、という思いからプロジェクトは始動しました。そこで、‘cocozine(ココジン)’というパフォーマンスグループを結成させ、2019年3月8日~10日に初公演『でたらめな境目』を実施しました。
パフォーマンスグループcocozineは現在4人で構成され、異なるジャンルで活動する「個々人」が協働体となって作られたグループです。これは、一人の絶対的なプロデューサーや演出家を置かずに、ディスカッションを通じて創作をおこなう実験でもあります。メンバーは(写真左から)松尾加奈(藝大アートプロデュース専攻修士)、河野紗代子(藝大作曲科卒業生)、櫻田康太(藝大建築科修士2019/3卒)、清水美紗都(お茶の水女子大舞踊・表現行動学コース修士2019/3卒)です。そのうち、松尾と櫻田、清水は、トビタテ第7期修了生で、松尾はイギリス・ロンドンの大学院で演劇を専攻、櫻田はベトナムの建築設計事務所へインターンシップ、清水はイギリス・リーズの大学院でダンス&アートマネジメントを専攻して留学していました。


本公演は、藝大千住キャンパスから徒歩3分ほどの日本家屋「仲町の家」を丸ごと一軒使った、回遊型のパフォーマンスになっています。

開演前に観客は2つのグループに分けられます。パフォーマーの懐中電灯の光を頼りに、真っ暗な屋敷の部屋を移動する中で、観客は演奏、ダンス、映像など、ジャンルの枠組みを越えたパフォーマンスを次々と目撃することになります。家が持っている音や、畳や襖、障子といった素材を最大限に活用しながら、空間に合わせた創作を行いました。タイトルの『でたらめな境目』は、ジャンルの枠にとらわれないだけでなく、家屋の敷居と空間との境界線を意識した演出にも反映されています。

≪※一枚の襖を別の対象に見立てながら、プロジェクターで映し出された会話を身体と連動させる櫻田と清水≫

この公演は、同じトビタテ海外留学プログラムを通して異なる専攻で学んだ者同士が集まり、アートの「境目」を超えた新しい表現を目指すという趣旨で企画されましたが、その背景には、個々のトビタテの留学経験が大きく関わっています。

私は留学先のロンドンで、大学院での学修活動の傍ら、国際協働の演劇の実践を知るため稽古場のフィールドワークも行っていました。パフォーミングアーツの場合、例外はありますが、組織の統率のしやすさや時間的な制約から、演出家や振付家が現場の頂点に立ち、創作におけるあらゆる決定権を一人の人間が握りがちになります。しかし、仮に一人のリーダー的な存在がいても、意見のぶつけ合いによって多様なアイディアや解釈を拾い上げることができるうえ、水平的で風通しのいい人間関係が作品を支えることを留学中のフィールドワーク活動から肌で感じました。
そこでは、日本人とイギリス人がコラボレーターになることで、異なる文化や言語が混ざり合った「インターカルチュラル」な舞台に出会うことができましたが、作品の中身だけでなく、異質な他者が出会い、ぶつかり合うことで創造的なエネルギーが生み出されるプロセスそのものが印象的でした。その現場では、日本国内で当たり前とされてきたルールや暗黙知はもはや通用せず、丁寧な議論や意思決定の方法が求められていました。

この経験を踏まえ、今回の公演では、メンバー同士が時間をかけて話し合いや意思決定をおこない、異なる分野を専攻してきた他者と共に「みんなで決めた感覚」を作りだすことに意識的になりました。同時に「当たり前」にとらわれることなく、自分たちに合うプロセスを考え、オリジナリティを探求する動きにもつながりました。

トビタテで得たこれらの知見と経験を活かしながら、今後もアウトプットとしての作品のみならず、そこに至るまでのプロセスにも重点をおいて活動をしていきたいと思っています。現在、cocozine は次回作を計画しています。

執筆者 トビタテ第7期修了生 松尾加奈