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ASAP実施報告:グローバルアートにおけるアジア現代美術の現在

March 08, 2021

アーツスタディ・アブロードプログラム(ASAP)とは、国際舞台で活躍できる優れた芸術家の育成を目的として平成27年度に開始した、学生の海外での芸術文化体験活動を促進する実践型教育プログラムです。国際経験豊富な藝大教員陣によるサポートのもと、参加学生自らが主体となり、海外渡航を伴う展覧会や演奏会、上映会、研修への参加、協定校への訪問等プログラムを実施します。

実施事業概要

事業名称:東京-台北・アートリサーチ・ワークショップ
実施者:国際芸術創造研究科
渡航先:台湾(台北)※オンライン実施
参加学生数:7人
実施時期:2020年9月~

成果概要

今年度は新型コロナウイルスの影響で予定していた渡航ができなかったため、東京藝術大学国際芸術創造研究科(GA:Global Arts)と国立台北芸術大学芸術跨域研究科(TA:Trans-disciplinary Arts)とでオンラインによる芸術文化交流プログラムを実施しました。GAからは日本人だけでなく、台湾や中国、サウジアラビアなど様々な国籍の7名の学生が参加し、TAからは台湾や香港、韓国出身の8名の学生が参加しました。

2020年9月のオンラインでのミーティングから交流をはじめ、東京と台北の学生混合で3つのグループに分かれ、「Museum Without Border」をテーマに様々な議論や発表を行いました。毎月、東京と台湾とで合同ミーティングを行い、またその合間にはグループごとに様々なツールを通じてやりとりを積み重ねてきました。最終日の2021年1月には、遠隔にいながらお互いの経験や時間を共有する試みとして、東京と台北からそれぞれの方角に歩くという「異解路泡(イジエ‐ルホウ)」プロジェクトを実施。歩く途中、ときどきオンラインで繋ぎ様々なパフォーマンスやワークショップを共に体験しました。

上野から台湾の方角へ歩く様子。

「異解路泡(イジエ‐ルホウ)」というタイトルは、議論を通じて台湾側と日本側とで考え出した造語です。一緒に居ても隔たれている感覚から「With-Out」という単語を出発点に、台湾側が「異なる」と同時に「解ける」という言葉、日本側が「泡」に包まれながらも「路」(みち)を歩くという言葉を考え、つなぎ合わせました。道中では、3つのグループがそれぞれ考えたパフォーマンスやワークショップを行いました。「SOUNDBODY」ではそれぞれの道中に聞こえる音にフォーカスし、また「ON-Line」では境界を感じさせる様々な風景やオブジェクトを撮影しSNS上に投稿していきました。「The 404 Shrine」では、SNS上から世界中の2021年新年の願いを抽出し、架空の神社をつくりあげるパフォーマンスを行い、「Can I see you now」では、お互いの声や土地勘を頼りにバーチャル空間上で出会うことを目指すオンラインゲームを行いました。

最終日のパフォーマンス「The 404 Shrine」では、それぞれの携帯端末からリアルタイムでチャットのできる仕組みを用いてオンラインパフォーマンスに参加した。

密になれない、渡航ができないなど様々な制約があるなかで、多様な文化背景や専門性をもった学生同士が繰り返しオンラインでの交流を積み重ねることで、主体的にアイディアを出し合い、新しい国際交流のあり方を探る貴重な機会となりました。また日頃の授業などでも直接会う機会のなかったGAの学生にとっても、領域の異なる学生同士で交流を深める重要な機会となりました。今後も国立台北芸術大学芸術跨域研究科との協働の可能性を探っていきたいと思います。

東京から台湾の方角へ歩くという経験のなかで得られた気づきや発見などを、台湾とオンラインとで繋ぎお互いに共有しあった。

体験記

  • From the very beginning of this project, we were full of freedom of imagination. We faced the difficulties of the epidemic, actively conceived the future of art museums and art without borders, and tried various ways to cross the distance (border). However, due to the international composition of the staff, we were able to appreciate the different charms of each culture, not to mention the policies and culture of our own country, even on ordinary topics, which often led to a lot of amazement.
    The program was initiated by Prof. Sumitomo, who often organized events, and we got to know each other as international students in the same program. He provided us with the most authoritative guidance while cultivating our views on the world situation and encouraging us to think independently. These attentive and thoughtful aspects really touched me and made me feel the meaning of this exchange: to go to a broader place, to see more perspectives, to think, and to answer.
    As the COVID-19 epidemic continues to spread and spread and people have to distance themselves from each other, people will start to miss the feeling of working together and interacting up close in the past. Online communication broke the time and space constraints, saving time and financial costs. Despite the problems of time difference and language barriers, and some challenges in the activities, the teachers and students were able to assist each other during the process, and in the end, not only did they grow in knowledge but also gained friendship. Besides the academic exchange, I think there is another important point worth noting, which is the method of communication, leadership improvement, influencing and motivating others, and the method of presenting reports. All these abilities are very important in our daily life, we are always in an environment of influencing and being influenced, and these methods and skills are well worth learning and practicing. Another thing I find interesting is that in this project, because we had to cross the limits of distance and borders, and because our means of communication were limited to online, we either actively or passively chose many new technological means, for example, we had discussed the possibility of building a VR museum, we had discussed the use of QR codes as a way to invite more audiences to participate in the the process of building the museum, etc. Although the project was not realized due to lack of preparation time, many projects using new technologies were presented in the final showcase, such as the project by Matsue, which introduced Yuto Hayashi’s 3D interactive game, “Can I See You Now”, in which you try to meet people in a virtual space of Google Street View. By transforming into a virtual character in the game, it explores the sense of physical distance and the sense of thinking distance, a new hybrid experiment that is thought-provoking.
    I enjoyed the project and benefited deeply from it. My only regret is that the final presentation of the project was only one day, which was rather rushed, and I hope that there will be more time for preparation and presentation for future ASAP projects. (Art produce, postgraduate of GA, M1)

 

  • Working with team C was so interesting despite the challenges, it was very difficult to have several online discussions, but all of the team members worked together to the very last end. During the several online meetings we got somehow familiar with each other and this is amazingly was reflected to the project. The concept of the “soundbody” project reflects the individual experience of daily activates and routine yet transmit it into borderless concept; during working as a group we came to the conclusion that these sounds (the sound of opening the window) for example does not necessarily reflect the region it was recorded on nor the culture nevertheless, you can’t even distinguish the gender of the person behind the sound. During composing the team audio tracks together and listening repeatedly to the audios, analyzing the sound notes to compose a noiseless soundtrack. It seemed as if we are being a third wheel in these sound tracks. While hearing it perhaps the listener could visually imagine the atmosphere or the story behind these sounds and restructure the reality of by imagination and the interfere of the memory. This concept itself is transmitting through the border.
    The “soundbody” project is created by five team members from a distance with cyber connection only This project transcended the geographical, cultural and language space, to represent an idea of overcoming barriers not only in art but in communication in particular, as the pandemic situation seems as if we are living in a period of cyber communication. (Postgraduate of GA, M1)

 

  • 今回のリサーチ先は「台湾」であることで、台湾出身の私にとっては皆に台湾を紹介する機会だと思ってましたが、新型コロナウイルスでオンライン実施となったのは残念でした。しか し、こういった国境を越えるリサーチをオンラインで参加したのが大変楽しかったです。 最初の顔合わせは台湾側の制限(Zoom使用できない、そもそもオンライン授業に慣れてないなど)によって、バタバタしていましたが、逆に日本側にもオンラインコンテンツを増やす経験にもなりました。そして、グループ分けで、私のグループの中に、台湾側は台湾人が3人、日本側は台湾人1人と日本人1人でした。台湾人多めの状態でしたが、英語中心でグル ープワークを行っていました。しかし、どちらにとっても母国語ではないということで、伝えたかったのが伝わってないことなどが多発しました。その時、自分はコーディネーターとして、台湾側の考えたことを中国語で受け取って、日本語を訳して日本側に伝えました。それで、かなりうまくいった気がします。
    今回のテーマは「ボーダーレスミュージアム」で、台湾側と日本側がボーダーについて考えて、ボーダーレスの環境を作るのはとても興味深かったです。国境、人種、言語、文化、私た ちの日常の中は常にボーダーが存在しているのに、グローバル時代になって、さらにインターネットが普及する中、あまり考えることはなかったです。今回の機会を通して、今まで考えたことのないことを自分で考えて、さらに、他者とも話し合うことができました。特に、今回は私のグループだけではなく、他のグループメンバーを含めて、多様な文化背景を持ってる学生がたくさんいました。様々アイデンティティを持ってる学生たちと話し合えて、自分の視野も広がりました。(国際芸術創造研究科アートプロデュース専攻修士1年)

 

  • 今年はオンラインでの開催でしたが、ASAPを通して私自身学んだことがたくさんあり、とても良い経験をさせてもらったなと感じています。
    ただ、初めてのことが続き、難しいと感じた場面や反省点もありました。まず、言語の問題が大きかったです。私のチームは中国語と英語と日本語を話す人が混在しており、共通の言語がないことに苦しみました。対面だと身振り手振りを交えてコミュニケーションをとることができますがオンライン上ではそうもいかず、言葉の壁をより一層感じました。しかし、フェイスブックを使ってテキストベースで会話することや、議事録を二か国語以上で残すことなど、みんなで知恵を出し合って協力することができたと思います。また、ASAP全体では、次のミーティングまでに何をやってくるべきなのかの情報共有がうまくできなかったなと感じています。もっと自分でグループを超えた横のつながりを作り、次のミーティングまでの課題を洗い出すことができていたら毎月の議論がもっと進んだのではないかと反省しています。
    その一方で、新型コロナウイルスが蔓延する今の状況において、海外の学生のみならずGAの同期と交流を持つことができたのが嬉しかったです。私はゼミがオンラインでしかも陳列館にも参加していないので、もしASAPがなかったら同期の顔をほとんど見ることがなかったなと思います。また、私は台湾に知り合いが全くいないので、台湾の方々との交流はとても興味深かったです。マスクをせずにみんなでお酒を飲んでいる様子が羨ましかったり、日本の学生と比較して政治的なことを自発的に発言する姿勢に影響されたり、でもやっぱり推しのアイドルは一緒だったりして、日本と台湾の違うところ・同じところを個人的なレベルで再発見することができました。(国際芸術創造研究科アートプロデュース専攻修士1年)

 

  • 今年のASAPは、「Museum without border」というテーマのもと実施されました。新型コロナウイルス の影響によりオンライン開催となったのは残念でしたが、台湾-日本間に2138kmの距離があるにもかかわらず密なコミュニケーションを取ることができたのではないかと思います。
    9月から重ねられたオンラインミーティングの中で特に印象に残っているのは、メンバー全員で話し合いながらプロジェクトを作り上げたプロセスです。様々な背景を持つメンバーが集っていたからこそ、 最初のディスカッションでは多岐に渡るボーダーがトピックとして挙がりました。最終的なアウトプット方法が決まっていなかったため、そこからどのようなプロジェクトにしていくかという話し合いには かなり時間がかかりましたが、しっかりとその過程に時間をとったからこそ異解-路泡プロジェクトを作り上げられたのだと思います。
    また、ASAPを進める中でそれぞれのメンバーが実感したボーダーが、各企画に反映されていたこともとても面白かったです。例えば私のグループが企画した「On-Line」プロジェクトでは、SNS上にボーダーレスな空間を創出することで、日々の生活の中にあるボーダーについて再考することが目指されま した。対面開催での場合、このようにオンライン空間を通してオフラインの限界を超えるというアイデアは生まれなかったのではないかと思います。
    今回のASAPでは、準備と企画実施日を通して、日常生活の中で見落とされていたボーダーを改めて見つめ直し、考える機会を持つことができました。また、ほとんど話す機会のなかった同期や台北芸術大 学の生徒たちと親交を深めるきっかけにもなりました。ASAPを開催したこと自体が、コロナ禍によって 生じたボーダーを乗り越えるという意味も持ったのではないかと思います。ただ、やはり台北メンバーと対面で会いたいという気持ちもあるため、海外に渡航できるようになった暁には台湾を訪れたいと考えています。(国際芸術創造研究科アートプロデュース専攻修士1年)

 

  • コロナの影響によって直接海外へいくことが不可能な状況で、いかに海を挟んだ距離を越えてそれぞ れの国で生きる人々の生活や習慣、環境や政治について想いを馳せられるか、あらゆる「ボーダー」を 越えるために何ができるか考えるきっかけとなるようなプロジェクトだった。半年ほどかけて台湾チームと会話を重ね最後のイベントとして行ったワークショップでは、私は映像研究科の学生でゲームやVR作品を制作している林さんを招待して台湾と日本で同時にゲームを行うプログラムを企画した。彼の作品は、Googleストリートビューを用いて、それぞれがよく知っているオンライン上の土地で人との出会いをテーマにしたものだった。結果として、使用したパソコンのスペックの問題、データ量の関係でス ムーズにゲームを進行できず、時間の都合もあって、台湾チームと日本チームが出会うことは叶わなかった。事前チェックを入念にしていれば回避できたかもしれないが、ある意味であらゆる繋がりの可能性として考慮されているインターネットも物理的なものでしかない、ということを改めて実感する機 会となった。林さんの作品は、単に出会うことだけではなく、出会いの難しさや、インターネットの接続中断によっていとも簡単に人間が「出会えなくなること」をシュミレーションさせるゲームだった。 そのシュミレーションはかえって、次に来たる人との再会の日を奇跡のように感じさせるのではないか、そういうふうに思った。(国際芸術創造研究科アートプロデュース専攻修士1年)

 

  • 東京-台北・アートリサーチ・ワークショップ「異解-路泡プロジェクト(IJIE-ROHOU Project)」で は、国立台北芸術大学芸術跨域研究科の学生たちと共同で、お互いの大学の方角へ向かって歩きなが ら、「Museum without border」というテーマを考える企画を道中でおこないました。新型コロナウイル ス感染症対策のための様々な制約の中で、実際に会ったことのない異国の学生同士、オンライン・ミー ティングを繰り返してコミュニケーションを取りながら、コロナ禍の現状だからこそ実行する意味のある企画を模索し実現することができたことは、今後も活発になっていくと考えられる国際的なオンライ ンプロジェクトの足掛かりとなりうる貴重な経験でした。
    本ワークショップの中で私たちのチームは、言語というボーダーを乗り越えるための非言語コミュニ ケーションを模索する「Soundbody」プロジェクトという企画をおこないました。私たちは普段、視覚情報に大きく頼って生活をしています。オンラインでやり取りをするときもまた、ビデオ通話など視覚的イメージをともなう会話は、より円滑なコミュニケーションをもたらしてくれます。しかし、このような理解しやすい視覚情報は、ときに私たちの想像力を奪ってしまっているのではないかと、私たちは台北芸術大学の学生たちと議論しながら考えました。
    音という限定的な情報にフォーカスし、録音したデータを交換して、お互いの音に注意深く耳を傾け ることで、私たちは遠く離れた場所の状況をより深く感じることができると思い、ワークショップ当日は歩きながら事前に録音した音源を聴いたうえでディスカッションをしました。またワークショップ中も台湾と日本、それぞれの道中でフィールドレコーディングをおこない、後日共有をしました。
    実際に会ってコミュニケーションをとることができないという厳しい状況ではありましたが、制限された中での可能性を求めることで、私たちは電話越しでも互いのことを少しでも知ることができたのではないかと思います。そして本ワークショップを終えて、よりいっそう、いつか実際に出会える日が待ち遠しいものとなりました。(国際芸術創造研究科アートプロデュース専攻修士1年)

2019年度のASAPでの出会いをきっかけに台湾で展覧会を実施した金秋雨(修士2年生)が、これまでのASAPでの経験を語ってくれた。

換気や消毒などの新型コロナウイルス対策を行った上で、オンラインとフィジカルな空間とのハイブリット形式でディスカッションを進めた。