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ASAP実施報告:ウガンダ

August 12, 2019

アーツスタディ・アブロードプログラム(ASAP)とは、国際舞台で活躍できる優れた芸術家の育成を目的として平成27年度に開始した、学生の海外での芸術文化体験活動を促進する実践型教育プログラムです。国際経験豊富な藝大教員陣によるサポートのもと、参加学生自らが主体となり、海外渡航を伴う展覧会や演奏会、上映会、研修への参加、協定校への訪問等プログラムを実施します。

実施事業概要

事業名称:
実施者:美術学部建築科
渡航先:ウガンダ共和国
参加学生数:5人
実施時期:2019年8月

成果概要

本プログラム参加学生5名にとって今回が初めてのアフリカ渡航であり、今後彼らが活躍する未来において、存在感を増すアフリカの一国で、吸収力の大きく先入観の少ない彼らが身をもって現地の状況を感じられたこと自体が大きな成果であった。
リサーチにおいては、成長する都市を様々な角度から見ることができたことが成果であった。制作においては、通常のカリキュラムにおける長期課題とは異なる短期ならではの、瞬発力、決断力、協調性が試されたことは、学生にとり、自身の能力やデザインそのものを問う機会となり、大きな刺激となった。
最終成果、講評においては、短い制作期間、制約のある中でアイデアが1:1で立ち上がり完成したこと自体が大きな成果であった。テーマであるshade、影が実際に場所をつくり、そこに佇む人々の実際の様子から得たものは大きい。
集中的な本プログラムにおいて、学生は様々な力を充分に発揮し、制作を通して、ウガンダをまた自分自身を発見する充実した滞在となった。

体験記

  • ワークショップの流れは、リサーチ、発見、制作というものであった。リサーチをしていて、ウガンダにはまだ手が生きているのだと感じた。自分たちで作り上げたピュアなストラクチャーやオーダーメイドの服、鉄の部材などがそこかしこで見ることができる。日本に戻った時に一番感じたギャップがこの点である。日本の建築や衣類は既製品の組み合わせのようなものが多く無駄なものが多すぎるように感じた。この即席感はウガンダで感じた一つの良さだと思う。
    ワークショップを通して感じたこととして、設計をするときに重要になっていくるリサーチの部分に、自分は苦手意識を持っているということだ。どうにもコンセプト的な部分がリサーチから生まれてこない。いつもやっていた形を出しながら、だんだんアンガ形を帯びてくるという過程を踏まずにデザインや、第1コンセプト的なものを生み出す瞬発力も必要になってくると感じた。特に今回の場合、模型材料もない、時間もないという状況では周りも引き込むような「とりあえずの強い案」のようなものが必要になるのではないか。これを生むにはデザインとリサーチをもう少し同義に捉える必要があると感じた。自分は今回リサーチはリサーチ、デザインはデザインと少し別々に考えすぎていたように思う。
    制作を通して、グループ1/1で作るということでディテール、工法まで決める必要があった。工学系の人間と組んだこともあり実際に建つであろうディテールが上がってくる、彼らのボキャブラリーの多さには救われた。しかし、やりたいことの議論よりどう建てるかの議論が中心になっていることがあり気になった。言語の壁もあり自分の主張が弱く議題をもう一度やりたいことに戻すことが出来なかったことが悔やまれる。(建築科学部2年)

 

  • ウガンダのいくつかの地域をリサーチした上で、敷地となる「やま仙」にて制作を行なった。リサーチでは木や建物、道路に並ぶ看板による「陰」に人々が集まり、それぞれの時間を過ごしている風景が多く見られた。その街に溢れた陰が、街の中に居場所を作るきっかけとなっていると考えた。それと同時に、実際に人々が生活している混沌とした場と、整備された敷地との間のギャップを感じた。リサーチを経て、敷地の中に落ちている特徴の異なる陰の中にそれぞれの居場所を作るための家具を作った。その居場所にあった家具のかたちを考えると同時に、起伏のある敷地内でひとつ基準となる水平面を作り出すことによって既存の建築との調和を考えた。気候や取り巻く環境が日々過ごしている日本と異なることが多く、気付けることがたくさんあり、周辺環境を読み取ることと、制作することをつなぐデザインするということが今回は考えられたと思う。
    制作では、直角や平面が出ない加工精度の中で、水平があらわれるよう現場合わせで作っていく。そこから置かれる場所に特化した家具が作れたように思う。鉄のプレートを加工するにあたって、今回現地の溶接工の人との制作となった。施工する人と交流するのは初めてだったが、実際に作っている人だからこその目線を知ることができた。
    街をみてまわるだけでなく、現地の学生や施工者の方達と交流し、実際に自分たちで制作したことで、デザインをより深く考えることができたと感じる。(建築科学部3年)

 

  • 今回のワークショップは現地の学生、卒業生たちとの活動が前提としてあったため、まず渡航前には自分が日本で何に興味を持ちどのような制作を行なってきたのかを共有するためself introductionの準備が必要であった。学部4年である私にとっては日本での学校生活から何を学びどのように今の自分ができてきたのかを伝えることがまず最も重要と考え、英語のポートフォリオを持参した。現地に到着して2日間はリサーチを徹底した。テレビでもほとんど見たことがないウガンダの街並み、環境、人々の生活は何もかもが新鮮でありその情報量の多さから制作に繋がる素材を探っていくのには2日では足りないほど時間を要した。また、これは現地での制作と直接関わることではないが、1日目にスラムへリサーチに訪れたことが私にとって最も大きな刺激となった。スラムと聞くと貧困という言葉を思い浮かべてしまうのだが、今回訪れたスラムはそのようには目に映らなかった。そこにいる人々はあくまで明るく楽しげでゆったりとした時間を過ごし、毎日が祭りのように賑わっていた。「貧しい」とは何なのかというのがこの瞬間に湧いた疑問で、少なくとも「幸せ」かどうかで考えたらせかせか歩いている東京人よりここの人々の方が幸せそうに見えてしまい、自分の固定観念が覆るような体験であった。
    3日目からはいよいよ制作である。チームに分かれ、ウガンダのメンバーと言葉やスケッチで意見交換を行う。私は他のメンバーがレストランの敷地内に設置を考えているところに、敢えて道路を挟んだ向こう岸のスタジアム前を敷地とし他のストラクチャーと呼応させるようなものを設置することで、レストランとスタジアムの間に感じ取れるboundaryを解消し二者の関係性を作り出そうと試みた。同じチームとなった二人の出したデザイン案からアングルや形状を合わせつつ、この敷地ゆえの狙いを達成するべく取り組む。メンバーの一人の案である商品を陳列することによりシェードを設けるというシステムを道路の反対側に延長させ、商品により新しい人の動きが生まれ、人の動きがboundaryを解消していく。またこの商品たちはカンパラ中心部から交渉の上商人と共に拝借してきたものである。現地の人の協力もあり実現した交渉、運送、販売は大きな経験となった。
    私は昨年ロンドンのワークショップに同じ形で参加したが、ワークショップならではのコミュニケーション力や即応能力の強化は昨年よりも求められいい経験となった。(建築科学部4年)

 

  • 今回の渡航は私にとって2回目の海外でした。ワークショップでウガンダに行くことになり、内容はバイクタクシーの待合場所を作るというものでした。ウガンダでの交通手段はバイクタクシーがほとんどで、日本のように電車やバスは使われていません。また、バイクタクシーといってもどこか決まった停留所やバス停のようなものがあるわけではなく、運転手は道路脇の木陰や人が集まる交差点などで乗りたい人がくるのを待ちます。私は現地でのリサーチを経て、バイクタクシーの運転手が待つためでなく、歩行者や服を売る人など誰でもそこにいることができて休憩していても、寝ていても、服を売っていてもいい場所を作りました。日本では1時間でできてしまうような材料調達に2日くらいかかったり、現地のガイドに協力してもらい市場で服を売っている人を雇ったり、現地でしか実現できないであろうことを経験することができました。また、そのような経験は今まで日本でしか生活したことがなかった自分の価値観にも影響を与えたような気がします。(建築科学部3年)