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ASAP実施報告:シュニットガー・フェスティバル2019

July 12, 2019

アーツスタディ・アブロードプログラム(ASAP)とは、国際舞台で活躍できる優れた芸術家の育成を目的として平成27年度に開始した、学生の海外での芸術文化体験活動を促進する実践型教育プログラムです。国際経験豊富な藝大教員陣によるサポートのもと、参加学生自らが主体となり、海外渡航を伴う展覧会や演奏会、上映会、研修への参加、協定校への訪問等プログラムを実施します。

実施事業概要

事業名称:シュニットガー・フェスティバル2019への参加
実施者:音楽学部器楽科
渡航先:オランダ(フローニンゲン)
参加学生数:8人
実施時期:2019年7月(10日間)

成果概要

オルガンは、楽器の中でもっとも長い歴史を持つ。そして、オルガンは時代と地域によって全く様式が異なり、特にオルガン音楽がもっとも栄えた(ゆえに今日のオルガンレパートリーの主要部分を占める)バロック時代のオリジナル楽器は、日本には存在しない。オルガン科のカリキュラムの中では、学部生が4年間を通じて学ぶ様式研究という授業内で、バロック時代の歴史的楽器の様式などについて座学で学んでいる。
ヨーロッパでもひときわ名高い歴史的オルガンの国であるオランダの、中でもフローニンゲンGroningen は、北ドイツ・バロックオルガンの最高峰であるアルプ・シュニットガー Arp Schnitger(1648-1719)の名器で世界中に知られている。今年はシュニットガー没後300年を記念したフェスティバル「フローニンゲン・オルガンサマー 2019 〜シュニットガー・ミーツ〜 Groningen Orgelzomer 2019 -Schnitger Meets」という特別企画が計画され、その中のマスタークラス事業に東京藝術大学オルガン科学生と教員が、他の4大学とともに招待を受けた。
学生はこのフェスティバルへの参加を通し、オルガン演奏に欠かせない歴史的楽器への理解を深め、国際的に活躍するオルガニストの素地を強固にする目的を持って参加した。
参加学生は、10日間アルプ・シュニットガーやシュニットガーの息子フランツ・カスパー・シュニットガー、シュニットガー弟子のヒンシュ、19世紀の楽器であるティンぺなどの歴史的楽器でのマスタークラス〜講師は、エルヴィン・ヴィエルジンガ氏、テオ・イエーレマ氏(フローニンゲン・プリンス・クラウス音楽院)、ヴォルフガング・ツェラー氏(ハンブルク音楽大学)、パヴェル・チェルニー氏(プラハ音楽院)、トビアス・ヴィリー氏(チューリヒ芸術大学)、キム・ジスン氏(ソウル神学大学校)、廣江理枝(東京藝術大学)〜を受講・聴講し、選抜された学生は3回行われた学生演奏会に出演した。また、周辺の貴重な歴史的オルガンで演奏される講師演奏会などの聴講からも多彩な演奏様式を学んだ。

新教会でのレッスン風景

日本では絶対に体験できない歴史的楽器とその置かれている教会の壮麗な響きを10日間に渡って実体験し、レジストレーション技術や独特のタッチ、その実践方法を実際に試し、得難い実習を行った。また、学生達が同年代の他国のオルガン学生との交流を深められたことも、この事業で得たもう一つの大きな成果であった。

マルティーニ教会にて最後のレセプション

体験記

  • 今年は、歴史的に名高いオルガン製作家のひとりである、アルプ・シュニットガーの没後300年を記念する年であり、世界各地で様々な大会が行われています。参加した事業もその一つで、日本には存在しない歴史的なオルガンに触れ、その音色を聴くことのできる素晴らしい経験となりました。 参加するに際し、歴史的なオルガンに最適な曲の選択を行いました。オルガンという楽器は、年月を経るにつれ、改築・増築を繰り返すことが多い楽器です。歴史的な楽器でも今ある姿はオリジナルと変わってしまう例もありますが、今回触れた楽器の多くは、深い研究がなされ当時のものとできるだけかわらないように、現代の製作家が修復したものでした。バロック時代に奏でられた音色が、今もなお鳴り続ける楽器には、やはり当時の曲を演奏するのが最も易しいものです。
    現地では、世界的に著名な先生方に加え約40名もの生徒がアジア・ヨーロッパ諸国から集まり、ともにレッスンを受けました。同世代の良きライバルの集うマスタークラスは、新鮮で励みになるものでした。また、現地のオルガニスト・オルガン製作家・オルガンのことをよく知っていらっしゃる方・音楽に興味のある方などとの、たくさんの興味深い交流がありました。オルガン音楽・教会音楽が根付いていない日本とは違い、一般の方から学ばされることも多くありました。 この活動を通し、半ば諦めかけていた留学への意欲が再興しました。比較的新しい日本の楽器たちには、到底この長い歴史の中で育まれてきた楽器の響きを真似できないと思ったためです。
    また、語学の重要さを改めて感じました。日本語という欧米諸国とは違った文字を使う言語を使う私たちにとって、西洋の言語を理解するのは難しいものです。この度の宿泊先がホームステイということもあり最低限の英語の学びはしていったものの、とてもとても足りなさを感じました。たくさんの課題が見えた研修となりました。(器楽科オルガン専攻修士2年)

 

  • 今回オランダのフローニンゲンで開催された「Schnitger Festival 2019」に参加させて頂き、様々な経験から多くのことを学ぶことができました。マルティーニ教会を中心とした数多くの教会に足を運び、レッスンやコンサートでオルガンを弾いたり聴いたりできた毎日は、大変充実した10日間でした。
    レッスンは毎日朝から夕方まで各国の先生方によって行われました。学生20名ほどのグループで一人ずつのレッスンだったので他の方のレッスンを聴講できたことも大変勉強になりました。レッスンの他には先生方の演奏会が場所を変えて毎晩行われました。様々な教会のオルガンによって先生方の演奏を毎日聴くことができるこのような機会は今までになく、大変貴重な時間となりました。土曜日と日曜日にはレッスンがないため、一日で3つのコンサートを聴きに行き、また観光や買い物なども楽しむことができ、オランダの文化を知ることもできました。また、学生によるコンサートに出演させて頂きました。演奏後は、お客様が立ち上がって拍手をして下さり、また先生や学生が握手をして下さり、ヨーロッパならではの温かさなのではないかと感じました。この10日間で聴きに行ったコンサートでは毎回観客は立ち上がって大きな拍手をしていたことや、街中で会った人に気軽に挨拶をするということが日常的であったことから日本との文化の違いを感じました。また、今回の滞在ではホームステイをさせて頂きましたが、ホストファミリーにはとても親切にして頂きました。寝泊りのみではなく、美味しい食事や毎回の送迎などをして頂いたお陰で贅沢な10日間を過ごすことができました。
    今回、ヨーロッパの歴史的なオルガンの響きを聴き、実際にそのオルガンを体験させて頂いたことやヨーロッパの文化を知ったこと、また様々な国から集まった先生方や学生と交流を持てたことで、多くの発見や大きな刺激がありました。そして、今後も音楽を学び続けたいという意欲が高まりました。最後になりますが、このような研修に参加させて頂き、心より感謝申し上げます。(器楽科オルガン専攻修士1年)

 

  • 今回はフローニンゲンでのマスタークラスということで、北ドイツの作曲家であるD・ブクステフーデと、J.S. バッハの作品を課題曲として選曲しました。現地では、主会場であるマルティーニ教会を中心に、Aakerk 、Nieuwekerk、 Noordwolde、Luthersekerk、Pelstergasthuiskerk、Farmsum、Anloo、Leens 、Nordbroek、Zuidbroek、Mensingeweer、 Uithuizenに於いて、世界各国から招かれた講師による演奏会を聴き、レッスンを受講しました。オルガン建築家のアルプ・シュニットガー没後300年の記念イベントでしたが、長い年月を経てもなお大変素晴らしい音色のオルガンがたくさん 残り、そのオルガンでレッスンを受けることが出来たことは、大変貴重で幸せな経験です。約40名の学生も各国から参加し、同じ志しを持った学生との交流も興味深いものでした。
    また、現地滞在中はホームステイさせていただき、音楽だけでなく現地の人の生活を体験し、直接いろいろなお話を聞くことが出来たことも、長い歴史を持つ、地域特性の大きなオ ルガン音楽を理解する上で大変大きな助けとなりました。とにかく聴衆が音楽とオルガンをとても愛していることを強く 感じました。オルガンは一つ一つ個性を持ち、同じものはありませんが、楽器の規模や使用可能な音の種類はあらかじめ知ることが出来ます。しかしそれが実際どのような音色なのかはその場で聴かないとわかりません。また、伴盤の重さや感触、建物の造りや残響についても同様です。そしてたとえ同じ作品を演奏する場合でも、それらを熟慮した上でそれぞ れに順応しなければならないことがよくわかりました。楽器を無視してはいけないということです。大変素晴らしい楽器を演奏し聴くことで、新たなレパートリーへの意欲も増し、その地域で生み出された作品への理解も深まりました。この経験を日本での勉強に生かし、新たな取り組みに繋げていきたいです。この度このような貴重な経験をさせていただけましたことに心より感謝いたします。
    (器楽科オルガン専攻)

 

  • Nederland, Groningenには、オルガンの名製作者であるArp Schnitgerが残したオルガンが多数残っており、毎年このようなFestivalが開かれています。特に今年は彼の没後300年のメモリアルイヤーで、ドイツをはじめとする世界中からオルガンを学ぶ者が集まり、Martini教会を中心に様々な教会でマスタークラス、講師や学生によるコンサート、エクスカーションが行われました。
    私は今回が初めてのヨーロッパ滞在だったのですが、色々な教会へ行ってみて、キリスト教とオルガンが密接にあることを改めて感じました。また、それぞれの教会でオルガンの様式や鍵盤のタッチ、音色や響きに個性があり、とても興味深かったです。以前と比べてオルガン1つ1つの特徴や変化を聞き分けられるようになり、この講習会を通して自分の感性が磨かれたと思います。他国の先生方によるレッスンでは、新たなアドバイスをいただくことができ充実した時となりました。近年、日本のオルガン人口が少なくなっている中、他国のオルガン科学生と交流を持てたことは貴重な経験であったと共に、こんなにも同世代にオルガンに興味を持っている人がいたことを知ることができて、嬉しかったです。しかし、反省点も多くありました。今まで真面目に自分の演奏と向き合ってきたつもりでしたが、他国の学生による演奏を聴いて自分はまだまだ未熟であることを痛感しました。また、マスタークラスはほとんど英語で行われたのですが、日本人には英語が聞き取れない、あるいは話せない学生が多いと感じました。自分もその1人で、通訳を受けないと理解できない場面が多く、同じ学生として恥ずかしかったです。他国の学生との会話でも英語やドイツ語が多かったのですが、せっかく話しかけてくれたのに私があまり話せないために会話が続かず、今まで留学する先輩がおしゃっていけれど実感が湧いていなかった「語学の壁」を目の当たりにしました。楽しかったというよりは悔いの多かった10日間でしたが、再来年の学部卒業を前に自分の弱さに気づくことができて良かったです。今後はこの経験を生かして、海外留学を視野にオルガンと語学の両立に努めたいと思います。(器楽科オルガン専攻3年)

 

  • Schnitger Festival 2019では、オランダ、フローニンゲン地方に残る数多くの歴史的楽器を巡るツアーが用意されている。Festivalへの参加にあたり、バッハを中心に北ドイツのレパートリーから、Bach:トリオソナタ4番BWV528、トッカータ、アダージョとフーガハ長調BWV564、Trio super Allein Gott in der Höh sei Ehr BWV664、Bruhns:Praeludium e-moll 、Brahms: Choralvorspiel und Fuge WoO7、Tunder: Christ lag in Todes Banden を用意し、マスタークラスに備えた。10日間のプログラムはほぼ毎日、午前午後のマスタークラスと、夜の講師演奏会で構成され、7名の国際的なオルガニストの先生方、各国から集まった学生たちでわきあいあいと進められた。マルティーニ教会でCerny先生にトリオソナタ、Nieuwe kerk でキム先生にブラームス、LeensのPetruskerkでCerny先生にブルーンス、NoordbroekのHervormdekerkでZerer先生にAllein Gottをみていただいた。それぞれ感触のことなる楽器でのレッスンは非常に興味深いものだった。各国からの学生の演奏にも大いに刺激を受けた。さらに、中でも優れたシュニットガーオルガンで有名なマルティーニ教会での学生演奏会に出演させていただいたのは貴重な機会であった。また、Leensで行われた師である廣江先生のアシスタントを務めさせていただき、得難い経験となった。毎夜開催される各地での講師演奏会は素晴らしいものであった。ステイ先のLeensではご厚意によりPetruskerkのオルガンで練習させていただき、早朝から夜遅くまでオルガンとともにあり、まさに夢のような10日間であった。そこで得られた音の感触、空気感は、今まで触れたことのないものだった。これまでの経験とあわせて、新たな欲求が生まれてくるのを感じた。この体験を生かして、これからの音楽活動をより豊かなものとしていきたい。(オルガン科 博士課程3年)

 

  • 7月29日から8月8日の期間、オルガン製作家アルプ・シュニットガーの没後300年を記念して、オランダ、ドイツ、チェコ、スイス、韓国、そして日本などの各国からのオルガン科の教授たち7人によるレッスンやコンサートが、この期間中にオランダ・フローニンゲンや郊外の街の様々な教会で行われた。参加者の学生は藝大からだけではなく、教授たちの門下生も集い、彼らの中からの選抜メンバーで学生コンサートも行われた。
    これまで歴史的な楽器で弾いた経験というのが皆無だった私にとって、オランダでの経験は生涯忘れられないものになった。天井の高い教会で高らかに響く、古くから受け継がれてきた音の粒がキラキラと溢れてきて、私はこの輝きを知らなかったと心から痛感させられた。色彩を表現する事を完全に怠っていた。自分の演奏にずっと色彩を渇望していた。そのほかにも当然、自分にはまだまだ多くのことが足りていないのだが、今回の滞在では、普段勉強しているオルガン音楽が生まれたヨーロッパの空気、音楽が溢れており歴史的な楽器や古い教会が多く残っている環境に将来的に身を置いてみたいと、強く感じた。
    オランダでは、ドイツやフランスに留学している先輩方も参加していて、その先輩方から留学に関して色々と貴重なお話を聞くことができた。多くのオルガン科生がヨーロッパで研鑽を積んでいるが、具体的なお話を聞く機会がこれまでなかったので、自分の将来的なキャリア形成の構築に大変役に立ったし、有意義な時間だった。
    教授たちによるレッスンは、主に英語またはドイツ語で行われた。他国のオルガン科学生とも交流する機会は多かったが、語学の重要性も痛感させられた。少なくとも英語はマスターしておいた方が、より多くのことを吸収できると感じた。私自身も錆びついた英語力で必死だったので、語学のことも今後の課題としたいと思った。(音楽学部器楽科オルガン専攻2年)