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ASAP実施報告:フランスのアニメーション高等教育機関での作品上映を通じた教育カリキュラム

March 01, 2023

アーツスタディ・アブロードプログラム(ASAP)とは、国際舞台で活躍できる優れた芸術家の育成を目的として平成27年度に開始した、学生の海外での芸術文化体験活動を促進する実践型教育プログラムです。国際経験豊富な藝大教員陣によるサポートのもと、参加学生自らが主体となり、海外渡航を伴う展覧会や演奏会、上映会、研修への参加、協定校への訪問等プログラムを実施します。

実施事業概要

事業名称:フランスのアニメーション高等教育機関での作品上映を通じた教育カリキュラム
実施者:映像研究科アニメーション専攻
渡航先:フランス(パリ、アヌシー)
参加学生数:6人
実施時期:2022年6月10日~6月21日(12日間)

成果概要

パリ・学校訪問

パリでは、本学と交流があるアニメーション教育機関2校を訪れた。

1.Gobelins, l’école de l’image(ゴブラン映像学校)

本校は、映像産業界に多くの人材を輩出している名門校である。
アニメーションの他、写真、グラフィックデザイン、ポストプロダクション等のプロフェッショナル人材の育成を行っている。
国際担当のユーゴ・モレル氏の案内で、校舎及び設備の見学を行った。

2.École Nationale Supérieure des Arts Décoratifs(国立高等装飾美術学校)

本校、通称「ENSAD」は、美術教育に特化した高等教育機関(グランゼコール)である。当専攻とも交換留学実績があり、良好な関係を築いている。
アニメーション学科教授のセルジュ・ヴェルニー氏、及び国際担当のリュドヴィーヌ・ザンボン氏の案内のもと、校舎及び設備の見学を行った。
本来ならば昨年度に本学に留学予定であったが新型コロナによる渡航制限で残念ながら叶わなかった学生、及び本年10月より本学に留学予定であるアレクサンドラ・キルチェンコ氏と交流を行う機会を得た。

パリ・美術館等見学

学校訪問の空き時間を利用して、美術館等の見学を行った。アニメーションや映像に深い関連のある以下の3館は、プログラムの一環として参加者全員で見学を行い、それ以外に希望者が任意でルーブル美術館等を訪れた。

1.フランス国立近代美術館(Musée national d’Art moderne)
パリを代表する観光名所でもあるポンピドゥ・センター(Centre Georges Pompidou)の中にある、近現代美術の有名作品が一堂に会している美術館である。学んだことがありながらも初めて作品の本物を見る学生達の関心が非常に高く、見学時間を予定より延長した程であった。

2.フォーラム・デ・ジマージュ(Forum des Images)
映画図書館やデジタル映像制作学校を併設する、パリ市が運営する上映施設であり、パリ中心部のショッピングセンターの中と、非常にアクセスし易い場所にある。おりしも、「NewImage Festival」と称する、デジタルアートに特化したイベントを開催中であり、通常のスクリーン上映のほか、VR体験コーナーもあり、観客の長い列ができていた。

3.メリエス博物館(Musée Méliès)

フランス国立の映画専門機関であるシネマテーク・フランセーズ(Cinémathèque Française)の中にある映画博物館であり、特殊効果映像の産みの親であるジョルジュ・メリエスの名を冠している。映画誕生の地であるフランスらしく、映画の黎明期に関する展示が特に充実しており、キネトスコープやフェナキストスコープといった、アニメーション史を学ぶ者にも馴染みのあるものも多く見られた。

アヌシー国際アニメーション映画祭

1.映画祭概要
アヌシー国際アニメーション映画祭は、世界最古そして最大規模のアニメーション映画祭であり、第61回を迎える2022年は、6月13日から18日にかけて開催された。長編、短編、テレビ、卒業制作、VR等のジャンルに分けられたアニメーション作品が計300回ほど上映され、映画祭併設のアニメーション映画マーケット(MIFA, Annecy International Animation Film Market)と合わせて、過去最高の13,000人超の参加登録があったという。

本映画祭は、世界最高レベルかつ最旬のアニメーション作品の上映の場であるのと同時に、アニメーション関係者が一堂に会するプラットフォームとしての役割も大きい。アヌシーは、美しい湖に面した風光明媚なリゾート地であり、開放的な雰囲気の中、参加者達はのびのびと交流を楽しむ。コロナ禍で人的往来が制限されていたこの2年間を取り戻すかのように、クリエイター、学生、映像産業関係者といった、世界中から集まった映画祭参加者達で、アヌシーの街は大いに賑わった。

例年、日本人監督の活躍が目立つのも、本映画祭の大きな特徴である。長編コントルシャン部門にノミネートされていた、映像研究科アニメーション専攻教授である山村浩二監督長編作品『幾多の北』は、同部門最高賞であるクリスタル賞を受賞した。また、同専攻修了生の矢野ほなみさんの監督作品『骨噛み』も、短編部門で上映された。MIFAには、日本の文化庁が出展を行い、女性監督にフォーカスした特別プログラムは、本専攻の岡本美津子教授がディレクターを務めた。

2.プログラムの内容及び活動
参加者一行は、13日の夜にアヌシーに到着し、映画祭終了翌日の19日まで滞在した。事前に、ほぼ全てのプログラムに参加可能となる映画祭パスを入手しており、まさにアニメーション漬けの5日間を過ごした。一部の学生は、クリスタル賞を受賞した山村教授の枠で、通常では入場することができない閉会式に参加するという、貴重な経験を得た。
期間中は、学生達が能動的に映画祭を体験すべく、教員側から参加すべき上映プログラムの指定は特に行わず、各自が自主的にスケジュールを組み、興味のある上映プログラムに参加する形をとった。映画祭には、長編から始まり、短編、コマーシャル映画、テレビシリーズ、卒業制作と、非常に多岐に渡る部門があり、全てを網羅するのは残念ながら不可能に近い。豊富な選択肢の中、学生達が積極的に鑑賞する傾向があったのは、特に短編部門と卒業制作部門であり、自らの制作背景に近い部分への強い関心がうかがわれた。自分もいつかこの舞台に立ちたい、というコメントが学生達に見られたことも、ただ「良い作品を見る」ための参加にとどまらず、世界の舞台に立つための制作意欲が強く刺激されたことの表れであろう。

映画祭期間中には、オフィシャルプログラムではない交流イベントも行われる。今回、そのような関係者が集まるレセプション等の機会に関しては、教員側から案内を行った。山村教授監督作品『幾多の北』上映記念パーティ、文化庁主催のジャパンレセプションに参加した学生のほか、自ら興味のある交流イベントに積極的に参加した学生もあった。
また、参加学生には、現地で知り合ったアニメーション学生やクリエイターとお互いの作品を鑑賞し合い、フィードバックを交換するという課題が与えられた。コロナ禍に関係なく、どうしても一人での作品制作に集中しがちな本学学生にとって、国籍の異なる若者の視点は制作者としての成長に欠かせない。自らのポートフォリオを持参し、出会った学生やクリエイターと見せ合ったり、さらには自らの作品を見たことがある者から話しかけられたりと、学内では叶わない交流の様子が見られた。国を超えて理解し合えたときや苦手意識のある外国語でのコミュニケーションが成功したときの高揚感、自分とは異なる着眼点で作品を解釈されたときの新鮮さ、コンセプトや技術についてきちんと説明することの難しさや自身の学習不足といった全ての気付きや感情が、日本に留まるだけではなかなか得られないものである。このような交流の中、英語でのプレゼンテーション能力が目に見えて上がり、新たな表現手段を身につけた学生もあった。

アヌシー市内には、アニメーション博物館も常設されており、上映の合間を縫って訪れ、歴史的な面でアニメーションへの造詣を深めた学生もあった。アヌシー映画祭を開催している市であるだけに、映画祭にゆかりのあるアーティストが手がけた作品も多く展示されており、山村教授の研究課題であるピンスクリーン技法の第一人者であるアレクサンドル・アレクセイエフ氏(Alexandre ALEXEIEFF)についても学ぶことができた。

事前・事後研修

今回のプログラムは、渡航前に3回のオリエンテーションを行った。パスポート・ビザ・フライトチケット等の入手、ワクチン接種証明や公式アプリの登録といった日本・フランス双方の水際対策に応じた用意、フランス滞在中の諸注意喚起等、数年ぶりとなる海外渡航に向けて入念な調査と準備を重ねた。また、参加学生には英語でのポートフォリオを作成させて、アーティストとしての自分と作品を英語で紹介するプレゼンテーション、及び質疑応答の会を設けた。帰国後は、専攻の他学生や教員を前に、今回のプログラムで得た知見や反省点、さらには最も印象の強かった作品を発表し上映する会を開催する。

体験記

  • 私は2022年6月10日〜21日の間に行われた、フランス渡航プログラムに参加しました。このプログラムに参加して良かったと感じていることは三つあります。一つ目は、アヌシー国際アニメーション映画祭へ参加したことです。たくさんのアニメーションを短期間で鑑賞するという貴重な体験は、普段なかなかできるものではありません。アニメーションを純粋に楽しむと同時に、アニメーションについて集中的に考える期間を持つことができました。また、私は今回初めてアニメーション映画祭の現地に行きました。オンラインでは感じることができない、映画祭の雰囲気や観客の熱気を体験することができました。作品上映後に大きな拍手を受ける作者の姿や、授賞式でスピーチをする受賞者の姿を見ながら、「いつか自分もこのような場所で上映したい」と強く思い、制作意欲が増しました。二つ目は、同行した学生と芸術や作品制作について深く話せたことです。コロナの影響もあって、学生同士で話す機会はかなり少なくなっています。約二週間の間行動を共にしたことで、日常生活ではなかったコミュニケーションをすることができました。当時、私は作品制作についてとても悩んでいましたが、学生と話をしながら、自分の頭の中を整理することができました。三つ目は、普段行っている制作を一旦ストップして、新しい環境に身を置けたことです。日本とは全く違う風景、食事、音などに触れながら、渡航前にモヤモヤしていた心をリセットすることができました。このように、私はフランス渡航プログラムに参加したことで、作品制作に対する意欲が上がり、制作の悩みから抜け出すことができました。ほぼ初めての海外渡航で不安も大きかったですが、今は参加して本当によかったと思っています。この経験を生かし、作品制作活動により力を入れていこうと思います。(アニメーション専攻修士2年)

 

  • フランスでこのイベントに参加できることを大変うれしく思います。 私にとっては、とても意味がある経験でした。
    アジア以外の国に行くのは初めてでしたが、文化やコミュニケーション、クリエイティビティなど、さまざまな面で大きく異なり、おもしろかったです。
    パリでは、2つのアニメーション学校を訪問し、私たちと同じようにアニメーションを勉強しているヨーロッパの学生たちが、どのように作っているのかを見てきました。 また、現地の学生たちと一緒に食事にも出かけました。 お互いのアニメーション作品を見て、「クリエイティビティ」についての理解を深めました。 ポンピドゥーにも行き、私に強い影響を与えた多くの芸術家の作品を見てきました。
    アヌシー国際アニメーション映画祭に参加しました。 アヌシーの街中がアニメーションをやっている人で溢れかえっていて、とてもワクワクになりました。 アニメーターのためのお祭りができたことは、感動的でした。 もちろん、素晴らしいアニメーションをたくさん見ましたが、それ以上に、異なる文化を持つ人々のアニメーションに対する見方を感じました。
    このフランスのイベントを通して、私は多くのものを得たと思います。(アニメーション専攻修士2年)