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ASAP実施報告:GEIDAI-FEMIS WORKSHOP in Paris 2022

March 03, 2023

アーツスタディ・アブロードプログラム(ASAP)とは、国際舞台で活躍できる優れた芸術家の育成を目的として平成27年度に開始した、学生の海外での芸術文化体験活動を促進する実践型教育プログラムです。国際経験豊富な藝大教員陣によるサポートのもと、参加学生自らが主体となり、海外渡航を伴う展覧会や演奏会、上映会、研修への参加、協定校への訪問等プログラムを実施します。

実施事業概要

事業名称:GEIDAI-FEMIS WORKSHOP in Paris 2022
実施者:映像研究科映画専攻
渡航先:フランス(パリ)
参加学生数:9人
実施時期:2023年1月15日~1月21日(7日間)

成果概要

コロナ禍のため2020年以来の開催となった本プログラムだが、例年通り5日間の日程で実施された。プロデュース、監督、脚本、撮影照明の4領域から9名の学生が参加した。
当初、プロデュース領域の学生に特化したプログラムとして実施されてきた経緯があるが、近年は全領域の学生に参加資格を開いてきたため、今回も領域横断的な幅広い授業が組まれ、領域に関わらず参加した学生にとっては有効な内容であった。

 フェミス到着(2023年1月16日)

今回は、ポスト・プロダクションのスタジオや撮影スタジオにおける撮影(Netflix『ウィーキングデッド』シリーズ)の見学などが組み込まれ、フランスの映画撮影の実際を肌で感じることができた。

撮影スタジオ見学(2023年1月19日)Cité du cinéma

フランスの映画制作における助成金や資金調達、上映配給などをサポートする国立映画映像センター(CNC)の仕組みを理解することで、日本映画界において解決すべき課題を認識することができた。今回、特に有効であったのは『PLAN75』における日仏共同制作のケーススタディで、近年増加しているフランスの助成金を得てフランスで録音仕上げ作業を行う場合に克服すべき問題について学べたことである。国内の作業だけでは気づかない日本映画のプロデュースや、録音仕上げ作業における国際標準との「差」について実感することができた。韓国や中国に比べても、国際化が遅れていると言われる日本映画界の具体的な課題を自覚することは、これからの映画人を育成する上で極めて重要で、大きな経験となった。

講義「フランス税制優遇制度について」(2020年1月17日)フェミス

「日仏共同制作と国際セールス」(2023年1月19日)フェミス

また、本学の作品の上映を行いフェミス監督領域主任のJulie BERTUCCELLI氏と編集領域主任のAnnette DUTERTRE氏から講評をいただいたことも良い刺激となった。
また2022年に来日したフェミスの監督領域の学生と、その際交流した本学監督領域の学生が再開し交流を深めた。交流の継続による連続性が生まれ、また次年度の事業に繋がりが生まれた。

ワークショップの主な日程は以下の通り。

1日目 午前 歓迎のコーヒー 挨拶の言葉:Nathalie COSTE CERDAN(Fémis校長)、Nicolas LASNIBAT(Fémis教頭)
フランス映画製作制度 講師:畑明広(映画監督、Fémis卒業生)
午後 ヌーベルヴァーグの映画 講師:Caroline SAN MARTIN(映画史担当講師)
2日目 午前 フランスでの撮影税金優遇制度
講師:Laurie ADES(国立映画庁CNC誘致・開発部部長)、Lola LEGROS(国際宣伝マネージャー(地方誘致団体Film Paris Region))
午後 ポスプロ会社TITRAFILM訪問
芸大短編作品上映 講評:Annette DUTERTRE(Fémis編集部・部長)、Julie BERTUCCELLI(Fémis監督部・部長)
『映画女ジェーン・カンピオン』上映及び監督のJulie BERTUCCELLIとの質疑応答
3日目 午前 日仏共同製作のケース研究『Sidonie au Japon』 講師:Sébastien HAGUENAUER(プロデューサー、10:15!Productions社)
午後 フランスにおける邦画配給ケース研究:早川千絵『PLAN 75』 講師:Hélène VASDEBONCOEUR(配給劇場予約・編成)
4日目 午前 共同製作と国際セールスケース研究:『PLAN 75』 講師:Frédéric CORVEZ(Urban Factory/Urban Sales社長)、Florencia GIL(Urban Sales国際セールス)
午後 「Cité du cinéma(映画都市)」撮影現場訪問
5日目 午前 Fémis学内 美術セット訪問(Fémisの監督部、美術部の学生たちと)
午後 特別講義:『ONODA』 講師:Arthur HARARI(監督)、Tom HARARI(撮影監督)、Yu SHIBUYA
お別れの一杯

 

体験記

  • 今回、映画学校「La Femis」ワークショップにおいては、主にフランスの映画助成制度、日仏共同製作・配給の実態についてのレクチャー受講や、現地の撮影スタジオ、製作会社の見学等を行った。
    この5日間を通じ、まず私が驚嘆したのは、フランスの映画助成が想像を超えて充実しているという点、映画が守るべき芸術として扱われ、民間を含め社会全体で支援するように法整備されているという点である。そして、それが単なる「文化芸術」単体への支援を超えて、回り回って国そのものや国民への還元に繋がっている。歴史や環境が違うとはいえ、やはり日本が習うべき点は大変多いと感じた。また、日本の映画製作の財政状況や労働環境が厳しいことは知っていたものの、実際にフランスとの比較話を聞くと格差は想像以上であり、改めて改善すべき深刻な問題だと実感した。
    上記のようなレクチャーの他、興味深かったのは、近年増加している日仏共同製作についてである。こちらも実際の映画のプロデューサーや監督等に直接質問し、話を聞けたことは大変貴重な機会であった。また脚本領域の学生としては、国際共同製作における脚本執筆のプロセスについてや、日本映画のヨーロッパでの受容のされ方の話、さらに海外作品のローカライズ・翻訳等の現場を実際に見学できたことも印象深い。
    最後に、同じように映画を学ぶFemisの学生たちと交流できたことは、大いに刺激になった。映画製作や実習の悩み等を共有し、それぞれの国の違いや映画について意見交換することができたことは嬉しく思う。
    今回、本ワークショップに参加したことで、まず現地を訪れなければ知り得なかったこと、書籍やネットだけでは実感できなかったこと、現地の専門家たちと直接話せる機会を得られたこと、コロナ以後の世界の映画製作の「現在地」を肌で感じることができたことは、大変ありがたく、贅沢で貴重な経験であった。そして私自身、一製作者を目指す者として、日本の映画製作の環境についてもっと目を向けるとともに、国内だけでなく海外へも視野を広げたいと思うきっかけとなった。
    未だ、コロナや国際情勢による不安が残る状況のなか、このような機会を設けていただいたことに深く感謝したい。(映画専攻修士1年)

 

  • フランスにおける映画製作の状況は以前からとても気になっており、直接当事者の方々から学べる機会はかなり貴重だと考え、参加することを決めた。参加前は漠然と「フランス国家が映画を芸術と認め、他の芸術とともに保護するために国家機関を作り助成金制度を持っている」くらいの知識があったが、日本における映画製作の資金繰りは99%民間に委ねられており、国が支援するということがどういうことなのか、全く想像できていなかった。実際に参加してみると、映画館の興行収入の数%がCNCという機関によって徴収され、映画を放映するテレビ局や配信プラットフォームには映画への再投資の義務があり、CNCが認定した芸術映画を上映・配給する映画館・配給会社にはまるで家電量販店のポイントサービスのようにポイントがたまっていき次回作の宣伝配給費に充てられるなど、日本ではどれも全く見聞きしたことがないシステムが成立していることにとても驚かされた。また、映画業界の労働時間制限も当たり前のように存在し、給料もある一定水準が保証されている。日本の映画従事者の待遇は体幹としても年々厳しさを増していく中、フランスでは生活のことばかりを考えずに芸術的な創作活動を優先できる状況があり、また、他国のロケ誘致でも最大40%の税金還付制度があったりと、映画と経済を結びつける直接的な取り組みが数多くあった。これらのシステムは国家機関が法制度を制定して成立しているものであり、義務に違反する者には罰則規定まであるため、どこか一部分を民間中心の日本で真似するということは難しいということもわかり、帰国して改めて絵に描いた餅を見せられているだけと歯を食いしばるような気分にもなった。しかし、映画を作り続けながらも映画を始めとした芸術・創作活動の保護について考え続け、映画は商品であると同時に芸術でもあるという態度を持ち、気概を持って創作を続けていこうと思わされた。フランスの映画製作の状況が、ただ何か羨ましい状況がある、という認識から、日本で映画制作者の立場を向上させるためにはこうするべき、という視座を持てたことが最大の収穫だった。(映画専攻修士1年)

 

  • 小澤征爾が「海外の芸術、学問を学ぶのならば、必ずその芸術が生まれた海外の街を歩くべきだ」と言っていたのを読んだことがあります。我が国は歴史上、つねに海外の文化に憧れ、そこから学ぶことで独自の色も生まれ発展してきたと思います。日本映画という文化は特にそうです。自分も映画という海外発祥の文化に携わっていきたい身として一度は映画という文化が生まれた街に行ってみたいという思いもあり、本WSに参加しました。初めて数々の映画の舞台になったパリの街を歩き、この審美的な街で撮られる映画はわが国で撮られる映画と根本的にまったく異なるものになるだろうということを実感しました。そして、日本映画はやはりフランス映画から学びつつも同じ土俵に向かうことは避け、異なるアプローチをしていかなければならないと感じました。また、Femisがあるモンマルトルにあったサクレ・クール寺院で初めて聖書に描かれたシーンをイラストの意匠で再現したヨーロッパのステンドグラスを目にしたことで、このような文化がある世界で発展した映画というものはやはり日本の映画とは異なるだろうし、日本にもこれに対応するなにかがあるはずだ、それを鳥獣戯画に求めるにせよ落語に求めるにせよ、と考えました。
    Femisではわが国では考えられないような国を挙げての芸術に対する保障制度、藝大の映画専攻とは比べ物にならない豊かな学校設備を目にし、切ない思いをするのに加え、しかし自国でやるしかないのだから、日本で活動する人にも活用できるシネマ・デュ・モンドなどの支援制度を十分に調べ、やっていく道を探すしかないと決意を新たにしました。
    最終日に受講できたアルチュール・アラリ監督・トム・アラリ監督の広義では、フランスの現代映画監督の話を直接聞くことができ、大変おもしろく勉強になりました。(映画専攻修士1年)

 

  • 昨今のフランスにおける、映画製作、配球、そして興業に関する正確な知識を、現場で活躍する様々な人の講義によって、身に付けることができた。
    具体的にはコロナ下における緊急的な資金援助、C NC(フランス国立映画センター)によって確立された、映画に携わる人たちへの助成・支援制度、テレビ局や金融機関(SOFICA)による出資や借入といった映画制作における資金調達の具体的な内容、有名なパリ市内の観光名所や、パリを外れた郊外における、幅広く認められたロケ地の使用と、それらを活発に誘致するフランスの映画コミッショナーの存在、大型のスタジオにおける生の製作現場、そして大まかな撮影スケジュール、フランスにおける日本映画の配給の実態や、日仏合同制作作品のポストプロダクションの現場と、日本とフランスにおける音の重要性の違いからくる、フランスのプロダクションでのポスプロ作業の負担について学ぶことができた。
    上記を通じて、実際に自分がプロデュースすることを想定した場合に、資金と人材面そして物理的な場所を考慮してフランスの制度を活用する必要があると考え、またアート映画(作家映画)の確固たる地位とフランスがそういった作品に誇りを持っていること、そしてアメリカ映画(商業的な娯楽映画)の売上の一部がフランスのアート映画の制作等を支えているという、ビジネスとアートの共存の重要性を感じるきっかけとなった。芸術性と娯楽性を兼ね備えた映画に関する歴史を持ち、その制作等を支援する枠組みが整っているフランスにおける学習は個人的にとても刺激的なものであり、有意義であった。(映画専攻修士1年)